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相続人が認知症だったら

最近の相続案件では、相続人の高齢化が増えている気がします。

これは、単に① 被相続人の長生きにより、相続開始年齢が高まった、だけではなく、

② 被相続人が独身または子供がいないため、兄弟姉妹が相続人になるような社会情勢が背景にあると思います。

 

どちらにせよ、多様な家族構成と高齢化社会により、相続人が高齢者だったりします。

そうなると、相続人が認知症になっている場合もあり、いつも以上に相続手続きに注意が必要です。

では、どういったことに注意するかと言うと

1.遺産分割協議ができない

2.2次相続対策ができない

3.不動産を売却しにくい

4.相続放棄に手順が必要

 

と、これらを説明する前に、相続人が認知症だからと言って、必ず1~4に該当するわけではありません。

まず、人が法律行為(遺産分割協議の合意など)を行うときは、「意思能力」がある必要があります。

「意思能力」とは、自分がした行為がどのような権利を取得し、また義務を負うのかを認識・判断できる能力と言えます。

 

認知症の初期段階のときには、意思能力がある可能性もあります。

ただ、これを家族が勝手に「意思能力がある」と主張しても、その法律行為は無効になります。

そのため、まずは医師に診断してもらい、意思能力があるか否かを確認しましょう。

 

もし、「意思能力がない」と判断された場合には、成年後見制度を利用します。

(この他、後見人には、未成年者を保護・支援する未成年後見人がいます。)

 

成年後見人とは、判断能力が衰えた人(成年被後見人)を保護・支援する人です。

成年後見人の役割には、① 成年被後見人の生活を支える「身上監護」と、

② 成年被後見人の財産を適切に管理する「財産管理」があります。

 

また、成年後見人には、「任意後見人」と「法定後見人」の2種類があります。

「任意後見人」は、今は元気に生活しているけれど、将来的に病気や認知症などで判断能力が低下した場合に備え、

意思決定能力があるうちに、後見人やその権限内容を任意に決めておける制度です。

 

「法定後見人」は、認知症などによって既に意思決定ができない場合、家庭裁判所へ申立て、選定して貰います。

もし、他の相続人がその相続人の法定相続人になっている場合には、お互いの利益相反になるため、

改めて家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。

 

 

1.遺産分割協議ができない
遺言書がない場合、遺産分割協議をする必要がありますが、

法定後見人または特別代理人が決まるには、上記のように医師の診断書・家庭裁判所の選任などで手間がかかります。

そのため、その間は遺産分割協議ができなく、時間がかかってしまいます。

 

2.2次相続対策ができない

また、法定後見人を選定し、遺産分割協議をするにしても、

法定相続人は、本人の財産保護を目的するため、不利な協議はできません。

そのため、法定相続分を相続することで家庭裁判所の許可が得られます。

 

という事は、配偶者が認知症で法定後見人を選任した場合、

2次相続を考慮して、法定相続分以下で相続するなど2次相続対策がしにくくなります。

その他、不動産も共有となってしまうため、小規模宅地等の特例を最大限に活用できなくなります。

 

3.相続した不動産の売却ができない
相続財産に不動産がある場合、相続人共有の財産になってしまうため、不動産の売却が難しくなってしまいます。

特に、居住用不動産の場合には、新たな住居先を探す必要があり、

また、本人の心身に大きな影響を与えることになるため、家庭裁判所の許可が必要になってきます。

 

この他、賃貸用不動産にしても、本人の財産保護の観点から、裁判所の許可が必要になってくることがあり、

建て替えや売却などの不動産の運用に支障をきたします。

 

4.相続放棄もできない
相続発生前から、その相続人に法定後見人がいる場合、

原則として、家庭裁判所の許可を得ることなく、相続放棄の手続を本人のために申し立てることができます。

ただし、年1回の家庭裁判所への定期報告のとき、相続放棄をしたことを報告する必要があり、

その相続放棄が不当である場合には、成年後見人として不適格とみなされて解任される可能性があります。

また、相続が発生してから法定後見人を選定する場合には、前述のとおり選定に時間がかかってしまいます。

 

この他、成年後見制度の利用には、

遺産分割が終わっても成年後見制度を解除できないため、成年後見人の毎月の報酬が負担になってしまうなどのリスクがあります。

このように、認知症になってしまうと様々な弊害があるため、元気なうちに相続対策を行うことをお勧めします。